半導体の情勢 8/9

要旨(エグゼクティブサマリー)

2025年の半導体産業は、**AI サーバーと高帯域幅メモリ(HBM)を核に拡大が続いています。WSTS(世界半導体市場統計)は2025年の市場規模を約7,009億ドル(+11.2%)と予測し、年央には7,280億ドル(+15.4%)**へ上方修正しました。特にメモリとロジックが牽引し、需要の重心はデータセンター/HPCに偏っています。(WSTS)

供給面では、HBM・先端パッケージング(CoWoS/SoIC 等)・EUV/High-NAがボトルネック/競争軸です。TSMC はN2(2nm)を2025年後半に量産開始、A14/A16の次世代ノードも相次いで発表。ASML は**High-NA EUV(EXE:5200)**の売上計上を2025年Q2に確認し、量産局面への移行が現実味を帯びました。(pr.tsmc.com, ourbrand.asml.com)

地政学では、米国の CHIPS 補助金が**TSMC(66億ドル)・Intel(最大78.65億ドル)・Samsung(47.45億ドル)・Amkor(4.07億ドル)**等に付与され、TSMC アリゾナで4nm生産が2025年1月に始動。一方、中国向け AI 半導体輸出規制は揺れ動き、H20 の対中輸出ライセンス発給など政策の不確実性が続いています。(U.S. Department of Commerce, NIST, Reuters)

以下、データ出典の明示中立的な比較を徹底しつつ、技術・需給・地域別政策の最新動向を整理します。


本稿の前提・情報源・更新タイムスタンプ

  • 更新基準日: 2025年8月9日(日本時間)
  • 主たる一次情報: WSTS/SIA 市場統計、企業 IR・プレス(TSMC/ASML/Intel/Samsung/Micron 等)、各国政府(米商務省/NIST、欧州委員会、METI/NEDO 等)、主要通信社(Reuters/FT)
  • 方法: 公的統計と一次ソースを優先し、報道・アナリストノートは補助的に参照。相反情報は出典を併記し、確度を明示。

マクロ市場の概況(2025年)

  • 市場規模と伸長:WSTS は 2025 年の世界半導体売上を 約7,009–7,280億ドル、前年比 +11.2〜+15.4% と見積もり。メモリとロジックが成長を牽引。SIA の 2025 年月次では 6 月売上 599億ドル(前年同月比 +19.6%) と高水準。(WSTS, Semiconductors.org)
  • セクター評価(参考):投資家センチメントは AI 循環を背景に良好。以下は半導体 ETF(SOXX)の足元推移です。

iShares Semiconductor ETF (SOXX) の株式市場情報

  • iShares Semiconductor ETF は USA 市場の fund です。.
  • 価格は現在 242.87 USD です 前回のクローズから 2.00 USD (0.01%) の変化。
  • 最新のオープン価格は 241.07 USD で、日中の取引量は 5301269 です。
  • 日中の最高は 243.23 USD、日中の最低は 240.23 USD です。
  • 最新の取引時刻は 土曜日, 8月 9, 08:51:04 JST です。

含意:2024 年の大幅反発に続き 2025 年も拡大。ただし成長の質は AI/HBM 偏重で、PC/スマホの汎用需要は回復に時間差。供給制約はシリコンプロセスそのものよりパッケージングと HBMに集中しています(後述)。


需要ドライバー:AI サーバーと HBM、そして先端パッケージング

HBM:2025年は「売り切れ」状態が常態化

  • 割当状況:SK hynix は 2024 年分が完売、2025 年もほぼ売り切れと表明。Micron も 2025 年供給の大半を確保済み。(Reuters)
  • 製品世代:Micron は **HBM3E(8-Hi/12-Hi)**を NVIDIA の B200/GB200/GB300 プラットフォーム向けに展開。(Micron Technology)
  • 競争軸:Samsung は 12-Hi HBM3E の認証・量産で遅れ報道と反論が交錯。AMD 向け採用や HBM4 計画を打ち出し巻き返しを図る。確度は公式発表>報道で読み分けが必要。(Kedglobal, TrendForce)
  • 市場規模:Yole は HBM 売上を 2025 年に約340億ドルと試算(24 年のほぼ倍)。(Yole Group)

先端パッケージング:CoWoS/SoIC がボトルネック

  • TSMC は CoWoS 能力を 2026 までに継続増強(CAGR50%超の見通しという外部推定があるが、公式は容量数値の開示に慎重)。米国では Amkor に 4.07 億ドルの CHIPS 補助が決定し、国内の先端実装・検査能力を補完。(TrendForce, U.S. Department of Commerce)
  • 3D 実装のSoICは 2025 年以降の量産立ち上げ案件が拡大。標準化(UCIe 等)の進展も重なり、HBM×チップレットの設計自由度が増しています。(TSMC, guc-asic.com)

リソグラフィとノード競争:N2/18A と High-NA の現在地

TSMC:N2→A16/A14 のロードマップ

  • N2(2nm):2025 年後半の量産開始予定。**A16(2026)**は背面電源(Super Power Rail)とナノシート併用で配線資源を最適化、A14は N2 比で 性能 +15%/同性能で電力 −30%/ロジック密度 +20% を公表(設計条件依存)。(pr.tsmc.com)

Intel:18A の歩留まり課題と打開策

  • Intel は 18A の HVM(量産)入りを掲げる一方、ノート向け Panther Lake の歩留まりに課題とする報道が直近浮上。社は 2025 年内の量産・製品出荷計画を維持しつつ、14A へのシフト観測も。公式発表と報道の乖離に注意が必要です。(Reuters, Wccftech)

ASML:High-NA EUV の量産適用が射程に

  • ASML は 2025 年 Q2 決算で High-NA ツール 1 台の売上認識を明記。EXE:5200 の出荷・受入が進み、**2025 年通期売上 +15%**見通しと併せ、次段階(量産投入)に進む地ならしが整いつつあります。初期の量産適用先は Intel の見通しが強いと報じられています。(ASML, ourbrand.asml.com)

地域別動向:政策と投資のリアル

米国:CHIPS 補助と国内製造の再興

日本:JASM の量産と Rapidus の 2nm 試作

  • JASM(熊本):第1工場は 2024 年末に量産開始。第2工場向けに7,320 億円の追加補助が公表され、6/7nm までのカバーで 2027 年稼働計画(最近はインフラ都合による遅延報道もあり、TSMC は各地域計画の相互依存を否定)。(Japan Wire by KYODO NEWS, sdxcentral.com, Tom's Hardware)
  • Rapidus(北海道)2nm GAA の試作進展(2025年は EUVパターニング実証、試作ウェハ上で 2nm トランジスタ動作を公表)。NEDO 予算承認や政府出資スキームで資本確保を継続。(Rapidus株式会社)

欧州:EU Chips Act とドレスデン(ESMC)

  • 欧州委は ESMC(TSMC+Bosch+Infineon+NXP)のドレスデン新工場を50億ユーロの独補助で承認。28/22nm と 16/12nm(FinFET)を計画し、2027 年稼働を目指す。(デジタル戦略, pr.tsmc.com)

中国:規制と自給の綱引き

  • 対中輸出規制の揺り戻し:2025 年 8 月、米商務省が NVIDIA の H20 に輸出ライセンスを発給し一部緩和。政策は政権交代期で振れ幅が大きく、供給網の再配線が続く見通し。(Reuters)
  • 装置制限:オランダは 2024 年に ASML の一部 DUV 出荷ライセンスを取り消し。最先端露光の中国導入には引き続き制約。(ASML)
  • SMIC の到達点:7nmの量産は確認される一方、2025年時点で商用 5nm の存在は未確認との業界報告。(EE Times)

企業動向(決算・技術ハイライト)

  • TSMC:2025 年 Q2 売上 300.7 億ドル、粗利率 58.6% と過去最高圏。HPC が 6 割、先端ノード比率の上昇で収益性が拡大。(investor.tsmc.com)
  • ASML:2025 年 Q2 売上 77 億ユーロ、粗利 53.7%High-NA 1 台の売上認識を明言。(ASML, ourbrand.asml.com)
  • メモリ大手:SK hynix は HBM 好調で投資拡大。Micron は HBM3E の NVIDIA 採用を相次ぎ公表。Samsung は HBM4 を含む次世代計画を前倒し。(Reuters, Micron Technology, コリアヘラルド)
  • Intel:18A で技術・顧客両面の課題が報道される一方、米政府支援とクラウド大手との提携で事業モメンタムを維持。報道ベースの不確実性に留意。(Reuters, Newsroom)

サプライチェーンの制約:どこが詰まっているか

  1. HBM スタック/HBM 基板:12-Hi の歩留まり・熱設計、ABF/ガラス基板など材料の転換点。ガラス基板は 2026–30 の量産化観測があるが、実装インフラの再整備が必要。(Yole Group, 3D InCites)
  2. 先端パッケージ装置・能力:CoWoS/SoIC の増強ペースが AI GPU の出荷に直結。米国内では Amkor の CHIPS 採択がボトルネック緩和に寄与。(U.S. Department of Commerce)
  3. 露光装置(High-NA):初期導入は限られ、設計ルール/マスクコストが新たな壁。ASML の出荷は進むが、量産収益化の本格化は 2026 年以降が中核シナリオ。(ourbrand.asml.com)

価格・サイクル:メモリ強含み、ロジックはミックス

  • HBM 価格:2024→2025 の急伸で逼迫継続。一部では 2026 年の価格調整観測も出るが、AI サイクルの持続と 3D DRAMの進化が下支え。(Reuters, Yole Group)
  • NAND/DRAM 汎用品:AI 以外での回復が鈍い場合、在庫と価格の振れが残存。WSTS ベースでは 2025 年はメモリが二桁伸長の見込み。(WSTS)

リスクと3つのシナリオ(2025–2027)

  • 政策リスク:対中輸出枠の再強化/再緩和、対外関税、新たなトレーサビリティ義務(チップ位置追跡)などがサプライチェーン再編を強いる可能性。(Tom's Hardware)
  • 実装ボトルネック:CoWoS/SoIC 能力が AI サーバー出荷の律速に。Amkor/TSMC/OSAT 増強が追いつけば 2026 年に平準化。(U.S. Department of Commerce)
  • 技術移行:High-NA の量産・収益化タイミング、ガラス基板の本格立ち上げ、HBM4/4E の歩留まりが鍵。(ourbrand.asml.com, Yole Group)

ベースケース:AI/HBM 主導で 2026 年も成長。上振れはパッケージ制約の早期解消と電力制約対応(CPO/液冷)進展。下振れは政策ショック(輸出規制・関税)と 18A/5A 以降のノード移行遅延。


実務への含意(調達・投資・開発)

  • 調達:HBM/先端パッケージはLTB(長納期部材)扱いで 2026 年分までの早期ブッキングが実用的。Micron/Sk hynix/Samsung のロードマップ差を前提に複線化を。(Reuters, Micron Technology)
  • 設計UCIe/チップレット前提でのアーキ設計、**CPO(Co-Packaged Optics)**の評価、熱設計(液冷)標準の早期採用が費用対効果を左右。(pr.tsmc.com)
  • 拠点戦略:米国は CHIPS 補助の枠組みが確立、日本は補助+人材・インフラの整備が前進、EU はドレスデンのオートモーティブ寄りポジションで補完関係。電力/水/用地の確保は各国共通の制約。

主要一次情報(抜粋・リンク)


まとめ

2025 年の半導体は、「AI(需要) × HBM/先端パッケージ(供給制約) × ノード進化(N2/18A + High-NA)」という三位一体で語られます。短期的には HBM とパッケージ能力がネックで、設計・調達・製造の全工程が密結合。中期的には High-NA とガラス基板の本格化が性能・コスト曲線を再定義し、政策はサプライチェーン再編の外生ショックであり続けるでしょう。足元のベースラインは成長続行、前提は供給制約の計画的緩和政策の急変回避です。

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です